犬を庭に放しておいたらいつのまにかいなくなっていて、近所を探したら知らない道を見つけた。もう日が落ちていたから犬はあきらめその道を行った。その方向だとそのうち田んぼの中に入っていくだろうと思ったが、道の両端が植木で覆われていて街灯もなく、少し向こうは道がやや曲がっていて、実際にはどこに行くかはわからない。近所ではない道なのかもしれない。犬を探していて、いつのまにか近所ではないところに来ていたのかもしれない。空だけははっきり見えて、まだ薄明るく、この下で今も犬は駆け回っているのだと思うと少し安心した。でもあの犬は人を噛むから早く探した方がいいかもしれない。だがこの前に犬を庭に放していたときは、おそらく仕事帰りの近所のお姉さんに二本立ちですり寄り「キキちゃんキキちゃん」となでられながら甘えていた。昔、そのお姉さんの家にはゴールデンレトリバーがいて、いつも散歩していた。この犬もいつのまにかいなくなっていた。この犬は長生きした。僕は道を引き返した。家につくと、僕が来たことに気づいた犬が、家の前をうれしそうに駆け回っていた。