彼の部屋

彼の部屋には、北側に大きな窓があり、山や空や田んぼがよく見える。その前に机を置いて、その景色をよく見ているらしい。近くに、窓の高さには達しないほどの木々があり、そのうちの二本は葉がなくて、「枯れてるのか」と聞いてみると、「枯れてない。夏にはいっぱいに葉がつく。右側の道路の向こう側の家並みからこの部屋の中が見えないのはこの木のおかげだ。冬は、枝の間から見えてしまうのだけど」そのときその木の枝に二匹の小鳥がとまり、不安定にしなる枝や、きょろきょろ辺りを伺っている鳥の様子がよく見えるので、「おもしろいな」と言うと、「いろんな鳥が来るんだが、いろんな鳴き方があるものだな。ビービー鳴く鳥がいる。しょっちゅう来るのはスズメだ。昔、じいちゃんがよく餌をあげていた」
西の小窓からは富士山が見え、北の大窓から見える山と比べながら彼は「明らかに富士山の方が遠いはずだが、こうして見ると同じ距離のようだ。もっとも今日は曇っているからかもしれないが。晴れ渡ってるときに見える北の山はそこを歩く人が一人一人見えるくらい鮮明なんだ」と言った。