電車で

 昨日は街に行った。去年、そこへは何十回も行ったので、どこもかしこも見飽きていた。店に入ることはなく、見ることだけを目的に行っているつもりだったが、たまには店に入ることもあったかもしれない。ともかく、飽き飽きしていたその街に、あるものを買いに行かなければならなかったので、近所で切符を買い、電車に乗った。晴れていたが、途中曇ったりした。電車の窓からは、ゆっくりと動く雲が見えた。田んぼみたいな畑みたいな土地が続いていた。家から近いもう一つの駅は一車両で、そうとうに遅いが、この電車もあまりはやくはなかった。女子高生の立ち話が聞こえる。そう、窓は二人の女子高生の間にあり、僕はその反対側からその窓を見ていた。車内アナウンスがあり、この先の駅で人身事故があったらしく、電車が詰まっているので一時停車するという。ゆっくりと、徐々に速度が落ちてゆく。だがまだ止まらない。すると辺りの光の加減が変わった。振り返り自分のすぐそばの窓から外を見ると目の前に崖がある。森の間を切り崩したところを路線が通っているのかもしれない。ゆっくりと左へ流れてゆく崖の石の質感を見ていた。どのくらい止まるのかわからず、車内には会社か誰かに遅刻することを伝える電話がぽつぽつと見え始めていた。少しずつ暗くなっていることには気づいていた。携帯の画面が人それぞれにきれいに光っていた。僕は女子高生というより二人の女性を見ていた。女性、というよりも、女性というふうにはとくに意識してないときに女性を見ているときのその感じだった。電車が止まった。二人の間の窓の向こうには、滝があった。それも、こんなにも静かに多くの水が流れる滝だ。ただの自然というものではない。何かが映っている。二人が、偶然にも僕の方、真正面を向いているそのときの、背筋のしっかりとした二人の背中だ。二人は同じ制服を着ていて、滝に映っている二つの背中には、違いは感じられなかった。