K君と志水さん、中原中也

 そのときが正確にいつだったのか、ほとんど覚えていない。小学生のころのような気がするが、一緒にいたK君は別の小学校なので、あれは中学1年くらいのことだろうか、まだ僕もK君も子どもっぽく、中学生が乗るような自転車ではなかったから、入学してすぐのことだったのかもしれない、でもK君と仲良くなったのは中学2年のときの修学旅行で、10人部屋で夜、どうしたわけかみんな疲れていて早くにみんな眠っていて、起きていたのはK君と僕だけのとき、彼が見せてくれた本がきっかけだった。それは文庫本だった。中原中也の詩集だった気がする。それは彼が読んでいる本ではなかった。彼は修学旅行出発当日、集合場所の駅に行くバスで乗り合わせた同じクラスの志水さんが、降りる時、座席に落としたその本を、彼は拾った。すぐに渡せばよかったが、その時は好奇心が勝り、バッグの奥底にしまったままついさっき部屋に着いて荷物を整理するときまで忘れていたと言った。中原中也の詩は授業で少し前に習っていた。僕は志水さんは授業で読んで好きになってこの本を買ったのではないかと言った。K君は志水さんは文学好きなのだと言った。どうしてそんなことを知っているのかと聞くと(僕たちはこのときほとんど初めて話したので、少し距離のある対話だった。みんなが寝ているので部屋は暗く、窓際から外のわずかなあかりを受けて荷物を整理していたとき、彼が話しかけてきたのだ)