川にエックハルト説教集を落とした

 川にエックハルト説教集を落とした。川というのは水がたくさん流れているあの川だ。そしてエックハルトというのはあのマイスター・エックハルトのことだ。今手元にはその本と、「カフカ・セレクションI 時空/認知」がある。昨日、家に面した道を右へ行って道に出た。川へ行くために、左へ行った。すると、草や花や木々や、あれはなんだろう、あの遠くの山や、子どものころよく行った町のはずれの森のなかにある、透明で、きらやかなもの、そうだ、光、が、あった。
 毎日ただ歩くことは退屈になりかねない。今これを読んでいる人が、どこにいるかはわからないが、そこからすぐ近くに道が、1つはあると思う。今、ほとんどの歩く人が持ちながら見ているそれは、多くの場合断片の集積といえた。すべてを含みうる自然というなかの道に対しての、断片の集積という、断片から次の断片へ、つながりそうなところで次の断片に行き続けることは、道をないものにした。
 本は自然を含んでいる。その自然というのはこの道のあるこの自然のことだが、この、ここではないどこかの自然だった。