対話

「10時54分です。あなたは今日何をしますか」
 まず、吉本ばななの「N・P」を読むことになります。これは、昨日の夜に少し読もうとして、ほんの少ししか読まなかった本です。なので1ページ目を開くと「160412」というハンコが押してあり、6ページ目までの間に二箇所、すでに線が引いてあります。
「97の短編が収録されている。根気のない人だったらしく、まるで散文みたいなごく短いストーリーが次々にくりだされる本だ。」
「この距離から見てるのが一番面白いと思った。話しかけたらじっくりと観察することができなくなってしまう。」
 まだまだ何もわかりませんが、今日中にあなたに感想が言えると思います。
「あなたが感想を言いたいのであれば、ぜひそうしてください」
 それから、偶然、手元には吉本隆明の「最後の親鸞」という本があります。昨日、友人と本屋に行ったとき、彼は家に本がたくさんあることが嫌になったらしく、それらの本を押し入れの奥にしまって、一冊だけを読み続けようと思うと言い、なにがいいだろうか、とさんざん悩んでいましたが、彼のことはともかく、僕はこの本がいいと思いました。
「それ以外に、何をするのですか」
 まだ話は終わっていません。僕は読む本を、読む前にじっくり見ることにしたのです。
「表紙を見るということですか?」
 表紙だけではなく、裏のあらすじも、開いてすぐの作者の紹介や写真も、本の厚み、紙質、あるいは見るだけでなく、本の重さや、匂いや、古本であればこれを前に読んだ人のこと、その人の家族のこと、その人は他にどんな本を読み、どんな本を売らずに残したのかということ。ありとあらゆることです。
「本の輪郭を意識するということですね」
 そうと言ってもいいかもしれません。

「11時22分です。ここから先は、大まかに、今日することを教えてください」
 はい。まず、床に積み重なったいくつもの本を整頓します。それから、昼食です。おそらく、昼食中は「キッズウォースペシャル」を見ます。
「まだ見ていたのですか」
 それから、さっきダウンロードした「爆笑問題カーボーイ」を聞きながら、自転車かあるいは歩いてどっかへ行きます。
 ここから先のことは書きません。以上です。ありがとうございました。