その'状態'

 何もせず眠れば眠るほど、瞬間的な悟りが訪れる。「(わたしは)ものでしかなく、なにでもなく、生きていても死んでいても同じである」これに感傷はない。
 ぼくは2日前から保坂和志の「残響」を読んでいます。前々回にKが、「僕が夢でみた、つまり夢に出てきたその人、たとえばAは、僕が夢にみたということは、AはAで、僕のことをなんらかの形で思い出している。夢でなくても、僕の名前と似た発語をしたときに、ふと僕の名前が思い浮かぶ、とか」と、本の受け売りではなく、明らかな実感をこめて言っていたので、
「あなたに会ったのも、会わなかったのも、すべて、この世界のなかでだったーー。」という、本のあらすじの一行目の、この小説を読むことで、なにかがわかるかもしれない。
 今わかるのは、保坂和志は世界があることを信じようとしている、Kは信じる前から世界がある。
 保坂和志は書いたことが世界の端になる、Kは書ききらないうちから世界がある。

 Kに、「おまえはまだ1つマシなんだ、だってその'状態'があるじゃないか。戦争に行かされる、その上官に「行け!」とぶったたかれそうになっても、おまえはその前に気づくだろ。うまくいけばよけられるかもしれない。だけど僕は、ぶったたかれるまでぶったたかれることに気づかないんだ。僕はなにもできない。行きたくないんだ、と言おうとする。でもことばが出てこないうちに「行け!」と大声でぶったたかれるわけ」Kは終始笑っていた。