中学生のころのことが、昨日のことのようです。手のとどかないものが、とどくかのようです。でも、思い出す途中で、消えます、記憶が。何を思い出そうとしているのか、そして、誰が思い出そうとしているのか。それさえも分からなくなり、分からないということも分からなくなり、果てしなく続くようで、それは一瞬で。ぼくは、ここにいる。そうか、ぼくが、思い出そうとしているのか。ぼく、って?

 丘の向こうに川が流れていました。同じ水は二度とありませんが、川はずっと同じようです。澄ましています。ぼくはしゃがみこみ、川に手を入れました。二度とない水が、ぼくを洗いながします。ぼくはそのまま川の中へ落ちそうでした。ちょん、と押されたら落ちたでしょう。でも落ちなかった。ぼくは立ち上がり、元来た道を行き、川にとってぼくは、消えてゆきました。川は立ち上がりました。そしてこっちを向いて頭を下げました。それから川は、ぼくの消えた方へ歩いてゆきました。