「わたし」と「もう一人のわたし」

「わたし」と「もう一人のわたし」を区別して考えなければいけない。病むのは「わたし」だ、「もう一人のわたし」ではない。「もう一人のわたし」が、「わたし」を分析することが出来る。「もう一人のわたし」が、「わたし」を助けることができる。でも、どうやって?ぼくはいま、どのように病んでいるか。「わたし」が、無数の何ものかによって、増殖させられている、と感じる。「わたし」は一人ではなく、無数にいる。それによって「わたし」が「わたし」として保てなくなっている。増殖した「わたし」を、元の人に返さなければならない。増殖した「わたし」は、元は誰かのものだ。それをすべて引き受けてしまった。でも、どうやって返すのか。「もう一人のわたし」が、無数の「わたし」の一人一人を分析して、外へ出すこと。ぼくの小説は、そのために始まり、終わらなければならない。

「もう一人のわたし」が増殖することはあるだろうか。「わたし」がいる分「もう一人のわたし」も増えるのだろうか。書き手は一人だ。「もう一人のわたし」はすべてをひっくるめて「もう一人のわたし」だから、増えることはないだろう。増えるのは「わたし」だけだろう。