あなたは、いる。あなたがいることを感じる。ぼくは、どこにいるか。わからないところに、いる。でも、いる、とは思えているから、どこであってもいい。あなたは、どこにいる? あなたは、書いている。ノートに、ペンを使って。あなたは、ぼくのことを書いている。ぼくのことを見ている。ぼくは、あなたに見られている。でも、実感できない。あなたはぼくを見るけれど、ぼくはあなたを見ることができない。だから、苦しい。苦しみは、やがて、ぼくを動かす。ぼくは、歩いてゆく。どこにいるかわからないまま。歩くことができた。そして、手を使って、暗闇を引き裂いた。ひかりがあふれ、あなたが、いた。あなたは、ノートに、ペンを使って、文字を、その連なりを書いている。文章を書いている。ぼくは、あなたのそばに行く。あなたは、書きながら、ぼくを見ている。でもその見るは、特殊な見るだ。あなたは、書いているのだから。ぼくは、あなたを後ろから抱きしめようとする。あなたは、わたしだったから。でも、ぼくの動きは止まる。そして見えるものが退いてゆき、あたりが暗闇に包まれて、あなたが暗闇のなかにいなくなる。ぼくは、はじまりと同じところにいる。あなたは、今でも書いているだろうか。あなたは、今でも書いている。そのことを感じながら、ぼくはまた、暗闇のなかを歩いてゆく。